渓流のフライフィッシング

 あれこれと昔ぁ~し昔の思い出を綴りだすときりが無い。そろそろフライフィッシングの事を書いておかないと解禁してしまいそうである。
 私がフライフィッシングをやるぞ!と決めたのは時は忘れたが、場所は揖斐川の西ノ谷か九頭龍の蝿帽子川だった。(揖斐川西谷であったとog氏が覚えておりました。)
決めたと言いつつ時は忘れるわ、場所もどっちだったかな?、といういい加減な決心ではあったが…
そのきっかけになった場面はしっかりと覚えております。
 その日はog氏と連れだってテンカラでイワナを狙いに行った日だった。渓相がなだらかで長くて浅い淵とチャラチャラした瀬が交互にだらだらと続く夏間近のほんの少々渇水気味の渓であった。とてもいい天気で先行者も無く、いい釣りが出来るはずであった。はずであったという事はお察しの通り惨敗。イワナは見えていた、淵尻にゆったりと構えて釣ってくれと言わんばかりの体勢であった。しかし、こいつらと来たら少し近づくと逃げる、気付かれない様うまく間合いを詰めて毛鉤を鼻っ面の前方1m付近に落として流してやっても知らん顔、アクションを付けて誘うとチラッと見てサッと逃げてしまう。瀬でも淵の深みでも反応は無い。見えてるのに釣れない。そんな状況が数時間続きog氏も嫌気がさしてきているのをひしひしと感じていたが、何とか1尾釣りたい!と上流へ上流へと、ただもう僅かな幸運のみに期待して釣り上がっていた。

後方から話し声が聞こえ長いラインが舞っている。あまりにも走られるのでストーキングに輪を掛けたようなストーキングで一ポイント攻めるのにかなり時間を掛けていたものだから後続に追いつかれてしまったのである。後続の二人はフライマンであった。その一人がブラブラとぶら下げて持っているのは何とイワナである。我々があんなに苦労しても全く食ってこなかったイワナである!
「釣れましたか?」見えてるのに聞いてしまった。「ええ、何とか2匹」……見えてます。…何でや!何で俺たちの後をやって釣れたんや?…「我々はもう帰りますからどうぞ先に行ってください。」…全くやる気をなくしてしまった。
 平水で渕尻に定位するイワナは何度か経験があった。そのほとんどがテンカラにそっぽを向いていた。だからそんな体勢に入ったイワナは何をやっても食わないんだと思っていた。餌の時も食わせられなかったのを憶えている。
 先を譲った我々を後に上流に行った彼らを眺めていたが、フライを知らない我々にさえ彼らの腕の程度ははっきりと分かった。「うまくないな」…でも釣れてるよねぇ…それまでのテンカラへの自信が私の中であのツインタワーの如く一気に崩れ落ちた瞬間だった。
 
 テンカラを極めてから(テンカラだけはかなりの自信がありました{私の自信といえば唯一これだけですが…})例のお店のKさんから勧められて5番ロッド一式は持っていたが、茶屋川で1時間ほど使っただけでこりゃだめだと放っておいたのを引っ張り出してきたがどうもしっくり来ない。茶屋川の1時間はキャスティングなども滅茶苦茶、フライが落ちた瞬間にドラグ掛かりまくりでラインの処理も当然出来なかったが、それ以前にこのシステムではどう足掻いてもドラグを回避できそうにないと思って止めてしまった。テンカラならばティペットは空中にあり毛鉤だけが水中を流れ、しっかり水流を掴んでドラグフリーを維持できるがティペット、リーダー、ラインを水面に落とさなければならないフライのシステムではかなりのキャスティング技術の習得とフライ、ラインコントロールが出来るようになるまで途方も無く時間がかかりそうで止めてしまったのである。
 揖斐川での出来事をKさんに話すと、「釣りというのはその時々によりそんな事もあるのは充分知っているやろ、今更何を言うてんにゃ、たまたまエルクカディスが当たったんやろ」となだめてくれたが、「フライはしてみたいがあんなにドラグ掛かりまくりではどうにもならん、何かいいシステムはないやろか」と、どうしてもフライでテンカラ並みの釣りがしたいと言うと、このビデオを一回見てみろと勧められたのが「岩井渓一郎、(何とか)60連発」というビデオであった。
早速帰ってひとしきり見たがイマイチ分からない、もう一度見てみた。リーダー、ティペットで17~20ft?!…これだ!これなら何とかなる!
 3番ロッド一式買いに走りました。そしてKさんのキャスティングレッスンを小1時間受け、近くの桂川河川敷で2~3時間自習、7~8mのラインは出るが後はくしゃくしゃになってそれ以上飛ばない、Kさんに見てもらうとロッドが倒れすぎ、あとダブルホールが出来るようになればもっとパワーが出るからダブルホールを練習しろと言われたが、それが思ったように行かない。今思うとあの時何故メル・クリーガーのエッセンスオブフライキャスティングを教えてくれなかったのだろうと思うが、その日から毎晩帰宅後キャスティングの練習である。

 当時住んでいたマンションは2階まで店舗、3階から住居用になっていて、私は3階に住んでいた。ラインが垂れ下がっても下の階からは見えないので苦情も無く、マンションの廊下でキャスティング練習が出来たのである。もちろんオーバーヘッドで練習できない、ロッドを正面に横振りで練習した。同じ階にオーナーの息子さんも住んでいて私が練習しているのを見て、面白い事をしていますねと言ってくれたので管理人さんからも苦情は無かった。
 ロッドを正面に持って横振りで練習した人はあまりいないと思うが、これは結構いいんじゃないかと今でも私は思っています。オーバーヘッドで前後に振る練習だとフォワードとバックのバランスがうまく掴めないが、横振りだと左右にラインが延びターンするタイミングがよく分かるしループの加減がよく見えてロッドのふり幅の調整が割りと簡単に出来るのです。しかもダブルホールのタイミングもつかみ易い、後は徐々に身体を横に向けていって前後のキャスティングに持っていくという段取り。マンションの廊下なのでサイドキャストしか出来ないが、サイドキャストでラインが落ちなければ、ほぼオーバーヘッドでラインが失速して落ちることはない。

 そして週末はT川へフライとテンカラを携えて通うのである。練習場としてT川を選んだのは魚影も濃く、適当に淵や瀬があってロングキャストもあまり必要ない川で…というより練習といえどもやはり魚が釣れてくれた方が楽しいというのが本音である。で、フライの練習に飽きたら…釣れなかったらテンカラでという不真面目な練習の日々が始まるのである。
 マンションキャスティングで会得したタイトループ!?のショートサイドキャストで初日からそれなりに釣りのような真似事は出来たのだが、やはり実戦というのは思わぬ障害が潜んでいるもので、いやほとんど全てが障害だらけで、何度ロッドを折ってしまおうかと思ったことやら。
 フライが水面にある時間よりライントラブル処理、引っかかったフライの回収処理等の時間の方がはるかに長い。俺はいったい何をしにここへ来ているんだ?そんな一日の鬱憤を夕方のテンカラ釣りで晴らし帰って来ていたものだった。
 餌釣りやテンカラの経験で魚の付き場や、フライを落とし流すレーン、そして魚がフライを食ってくるポイント等の予測は出来たので、問題はラインのメンディングやスラックキャスト、リーダーティペットを曲げたり延ばしたりするキャスティングのタイミング、そして一番肝心の釣れるフライの選択(というか作り方)。短く言ってしまえばこんな事が出来なくて、ほぼ一夏、イライラ釣行が続いた。
 フライは何がいいのかサッパリ分からず、取敢えずテンカラ針でやってみたが、全く見えない。店頭にあった幾つかのフライを購入し真似てみたが、出来たものは不細工で仕方がなく、何よりこんなフライを魚が食ってくれるはずがないと途方にくれた。またKさんの店に行き色々物色していたら、またまた登場、岩井渓一郎フライタイイング100選とかなんとかいう本!ビデオと併せて使えば分かりやすいと思い購入。
 ウェットフライ以外はほぼ作ってみた。で、何とか使えそうなのがパラシュート系とカディス系、あとテレストリアル少々。ソフトハックルは自前で行くことにした。
 パラシュート、スタンダード、CDC色々試しました。カディス、ストーン、バッタにコオロギに蟻、カナブン。イワイイワナにイワイ何とか…
取敢えずどれを基本に釣りしたらええねん?という疑問に岩井先生のビデオは答えをくれた。岩井先生がビデオの中でなかなか食ってくれない魚に対して「最後はクイルボディパラシュート#18」と言っていたのだ。最終兵器はクイルボディパラなのだな!と勝手に思い込み、最終兵器をパイロットフライにしたらええやん!となり、今に至っている次第。
 スタンダードのミッジもよかった、バッタもある川ではピッタリはまった。U川のイブニングでメイフライ、カディス、アントと無視されストーンにぴったりマッチしたこともあった。激流からビートルに飛び出したアマゴに驚いたこともあった。ただCDCには往生した、未だに使いたくない。
 そんなこんなで今の体制は4番ロッドに3番ライン、12ft5Xリーダー、6Xor7Xティペット3~4ft、パイロットフライにクイルボディパラ#14(ほぼこればっかりなのでパイロットとは言えないが)。気分により2番や0番も極たまに使う。
 フライボックスは恥ずかしくて人には見せられない。
 イブニングにはベージュ系と黒系のドライを流してみて当たらなければそれ以上面倒なので、テンカラ針をダウンクロスでリトリーブして食わせてしまう。ただこれはすぐに場荒れして2~3匹釣ると後が続かないので同行者には不評である。

 三回流して食わなければ上に行きます。人の後は釣りません。キャスティング前にベストな立ち位置を常に心がけています。キャッチアンドリリースしてます。たまに塩焼き2匹くらい食べてます。野営の塩焼きはうまいです。
 フライフィッシングの師はKさんとビデオの中の岩井さんでしょうか。最大の師はT川かもしれません。