熊野で修行すること

24日金曜、熊野市にて人と会うことになった。断っても支障のある事でもなかったのだが、R169は通過できるかと奈良の知り合いに聞くと4月後半から交互通行で通過可能になったという。前鬼川イケルな…行きたいという気持ちは起こるがなかなか足の向かない前鬼川、その美しい渓谷に浸りたいと思いつつもついつい手頃なところで済ませてしまっていた。この傾向性は若い頃から悩みの種であり、これは終生治ることはないだろうが、今回の熊野出張の話、その本件にはさほど重要性を感じなかったものの、金曜に熊野、翌日休日、帰り道に前鬼川あり、という条件が瞬時にOKを出していた。
熊野市駅でAM11:00に待ち合わせ、前鬼口を10:00に出れば充分間に合う、ということは金曜の朝一前鬼を攻めて行くのも無理ではない。そんな邪まな思いもあって前日夜から出発した。ところが途中から雨が降り出し前鬼を通過する頃には本降りになっていた。いくらなんでも雨の中釣りをしてそのまんま初めてあう人と名刺交換するわけにもいかないので朝一の釣りは諦めた。仕事をさっさと片付ければ夕方には前鬼に立てる、前鬼の美しい水で顔を洗う予定が国道沿いの駐車場でたっぷり睡眠をとり、こそこそと歯を磨いて身なりを整え熊野駅へ。
熊野の山々というのは何か不思議なほど急峻にそそり立ち、物凄い山中を走っているのかと思いきや突如海が出現する。その昔、物好きが(人のことは言えないが)この山々を信仰の対象にしようと思い立った訳が分からないでもない不可思議さを持っている。
PM3:30、話も余興に入った段階で席を立ち前鬼へ取って返すが雨脚が強い、前鬼川は少々の雨では濁りはしないが増水すると危険である。これは夕方の釣りもアブナイぞと半ば諦め気味の気持ちとは裏腹に国道を避け、駅で客待ち中のタクシードライバーに確認したショートカットの山越え道を飛ばす。
4:30頃前鬼七重不動滝を一望できる地点に到着、数名のカメラマンがカッパ姿で三脚を据え普段の3倍にはなろうかという水量の不動滝を嬉々として撮影している。聞くと先ほどから急激に水量が増えだしたという。残念という気持ちと救われたという気持ちが入り混じり矛盾的自己同一を図りに掛かる。

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上流の水量を確認に行くと茶色い濁流がそこに立つことさえ拒んで河岸を飲み込んでいた。
前鬼坊から流れ込む黒谷を見に行くと何とか今なら釣りは出来るぞ状態、急いで準備して吊橋から入ってみるが、石の状態から20cmは増水している、濁りはさほどでもないがポイントがない。僅かな緩流帯を探してフライを打ち込むが、こんな時出るのは大概こんなチビばかりである。

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1時間ほど足掻いてみたが増すばかりの水量と止みそうもない雨空に観念した。
チビばかりではあったが前鬼の朱点鮮やかなアマゴに久しぶりに出会えたこと、中途半端な時間に本流に入って急激な増水にさらされなかったことに感謝して帰ろう。

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一気に疲れが出た帰り道、物凄い眠気に襲われ暫く走っては見たものの、私のGPSさえ機能しなくなっていることに気付き仮眠することにした。
目が覚めると9:30、夕方og氏からメールでT川50mm、U川100mmの降雨量の知らせがあったことを思い出した。そして、不覚にも仮眠をとった場所さえ覚えていなかったがそこが大迫ダムのちょい下流であったことを確認。
このまま帰れば明日は大型ゴミと化して眠りこけるのみ、雨は止んでいる。
吉野、北俣川はどうなんだろう、増水しているだろうが明日には回復しないだろうか。食料も2日分買い込んであるし朝まで待っても損はしない、急遽ダム上流を目指す、水引きの早い上流域の昔々いいポイントが続いていた堰堤付近の広場に落石の少なそうな場所を見つけて本格的に寝る。途中やっと自立したばかりの子ウサギが何度か現れ、車のライトに目を眩まされライトの照らす方向にしか逃げられず右往左往する可愛い姿を久しぶりに見た、北陸方面ではよく黒ウサギが延々とライトの前を走り続ける姿をよく見ていたが最近はトンとご無沙汰である。

翌朝、増水は10cmに満たない程度、クリアな水色。この水量なら下流域の方が型は望めるだろうと下流へ戻る。夜中に2台ほど上流へ走った車があったほかは途中車がない。おかしい、釣れないのか?…やっと地元車らしき軽トラが1台、その下流1Kmほどのところから入渓。気温14℃、入渓直後にライズ、15cmくらいのチビ。
軽トラのあった場所まで釣り上がるが15cm程度のが2匹と10cm未満のが無数…こりゃまともなのは居ないのかも。
軽トラまで上がったところで持ち主が丁度下りてきたところに出くわした。「魚いますか?」聞くと「いるいる、いっぱい居るよ。こんなんまで居る」と誇らしげに見せてくれたのは23cm程の痩せたアマゴ、「はぁ~居ますね、どれぐらい釣れました?」とビクを覗かせてもらうと15cm以上20cm未満のが10匹ほど入っていた。ふと彼は無愛想になり寡黙になってしまった。先ほどまで色々レクチャーしてくれていたのに…しまった、23cmのアマゴへのリアクションが希薄であったか…
彼はそそくさとバカ長を脱ぎ帰っていってしまった。確かにいっぱい魚はいる、ただその標準サイズは17~8cm?これをカウントしなければならないのだ。サイズを求めてはならない、数の勝負だなこりゃ。再び堰堤上流へ引き返し昼まで釣りあがり13尾、22~3cmが2尾、あとは標準サイズのみ。

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中流部は川まで高い、よくもこんな場所に入っていたものだと、若かったなぁと感慨深くなるほど高い。その中でも少しは辛抱できる高さの地点から午後入渓

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200mほど釣りあがり3尾追加し疲れ果てた。飽きてしまった。林道までヒィヒィいいながら這い上がり車まで戻りバカ長を脱ぎ車内を整理して帰る!
これは修行だな、釣っても釣っても20cmに到達しない、たまにロッドを曲げるのは22~3cm、場所を変えようと思えば川への上り下りでクタクタになる。修行だ!

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ヤマツツジ
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ガクウツギ(多分)…紫陽花属
大迫ダムに3:00到着、もう一度前鬼へ向かう、帰ろうと思ったが同じ修行するなら本場で、と…。
午後までかなり水量が下がったので前鬼の水量も思いのほか下がっているのではないだろうかとスケベ心が出てきたのである。イカン、まだまだ修行がたりない!

前鬼七重の滝に4:00前に到着、案の定昨日の三分の一程度になっている。

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4:30七重の滝上流部から入渓、10cmほどの増水だが濁りは全くない。

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浅そうに見えるが手前の白泡の上は股間が浸かるくらいの水深がある
透明度はピカイチだ。遠目から見るとコバルトブルーに輝いている。
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一投目、手前の岸からイイ型が追ってきたがドラグで見切られた。嬉しい、前鬼だ、綺麗だ、これが渓流釣りだよな!
久々に清冽な水に浸り、深い淵底の石まで見える流れにフライを流す。はぁ、なんとも至福の時間である。

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最初に釣れたのはちっちゃかった、次にきたのは25cmは優に超えていた、と思う。フライがバーブレスしか残っていない、#16、前にT川でバラシまくった奴だけ残っていた。

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増水直後だけにバンバン出る。イイ型もバッシャーンと出る、フックアップする寄せにかかる、バレル…この#16バーブレス、この修行が終わったら全部廃棄する!いくらバーブレスとはいえここまでバレルのは異常だ、私の作り込みが悪いんだろう。今日は修行だ、北俣では小物に耐え、前鬼では良型のバラシに耐えるのだ、修行なのだ!そうここは修行の地、熊野だからな…
6:30まで行けるところまで行ったが増水のため渡渉不可能となり修行を終える、淵々でかなりの数の魚が飛び出すがフックアップ出来ずやっとフックアップ出来ると小さい、1尾フックアップするとその淵は沈黙するといった状態だった。増水で淵に逃げ込んでいたのがボチボチ出てきだしていたのだろう。下りる途中淵を上流から流し流し下りた。25前後を2尾バラシた淵で再びHit、取り込めた、岩盤にポロリと落ちたが跳ね回る奴を何とか足で食い止めカメラの準備、採寸26cm、ポーズを決めシャッターを切った瞬間跳ねた…まだまだ修行が足りない。