猿と猪と男と渇水

“忘れてしまいたいことやぁ〜、どうしようもないストレスにぃ〜、包まれたときに男はぁ〜、竿を振るのでしょう〜・・・♪”

前回にも増してさらに気合を入れ、早朝4時15分に到着。
“ポワァーン、ポワァーン”という例のディンプルライズを狙うためである。
獣除けにクラクションを大きく2回鳴らし、まだ薄暗い林道を独りで歩き出した。
7Xのフロロカーボンティペット、18番のQBP、19フィートのラインシステムという今考えられる最強のコンビネーションシステムで第1投、いつものようにチビアマゴがご愛嬌でフライをつつきに来た。

水温は13℃、堰堤際のレーンを流した5投目にしっかりとした反応があり本日の1匹目とご対面。
20080629152618

20cm程の綺麗なアマゴ、“お迎えご苦労さん”と撮影後にリリース。
いつも心が和む瞬間である。
気分上々で上流の流れに眼をやった途端、落胆の色に包まれた・・・。
『渇水!』、平水より10cm位少ないだろうか・・・、1つ目の障害である。
当然のことながら例の“ポワァーン”は見られないし、水量と水勢が少ないせいでおのずとヒットポイントも少なくなっている。

“まっ、濁りと増水よりましか!”と半ばあきらめ気分で上流の少なくなったポイントへフライを落としていく。
すぐに21cmのアマゴがヒット、そして今度は前回良型のイワナが出たポイントへフワリと落とすとやっぱり居ましたイワナ君、23cmくらいのサイズか。
21-1

しかしフッキングが甘かったようで無情にも針外れ。
その少し先で今度こそ18cmのイワナ。
I18

その後もほぼ順調に18−21cmのアマゴやイワナが釣れ続く。
21-2
p-1

そして川が90度に折れ曲がっているポイント、過去には大型が良く釣れたところ。
p-2

突き出た岩の下流側には良型が泳いでいるのが見えるが、手前の流れにラインが乗ってすぐにドラグがかかってしまう難しいポイント。
その上流側の流れが岩に突き当たるスポットで出たのが23cmの美形アマゴ。
23-1

こういうサイズが揃うのがこの川の魅力でもある。

その後苦戦が続いて迎えたこの区間最後のポイント、いつも期待にこたえて良型が顔を見せてくれる。
今日は水が少ないので荒瀬からの流れ出しに居付いていた。
18番のQBPをひったくるように持っていったのは27cmのナイスバディ。
愛竿の2番ロッドを根元からひん曲げてくれた強者アマゴだった。
27

ポイントも少なくなって後半苦戦したがここまでで12匹はまずまずだろう。

次に向かったのは、言わずと知れた前回爆釣区間だった崩落地点上流部。
時間はまだ9時、多分空いているだろうと思ったのだが甘かった。
二組3人の男達が熱心にフライラインを操作している始末、2つ目の障害である。
H川出合いやOB川出合いにも車が2台ずつ止まっていて、なんか最近人が増えた感じがするこのT川、少し宣伝しすぎたか・・・?

仕方がないのでさらに下流へ進み、W見地区の瀬に入ってみることにした。
以前は良く釣れたところだがここ4−5年はさっぱり、回復を期待しての入渓。
だが、やはり期待倒れだったようで、釣れて来るのは12−3cmのチビさん達。
その先の淵も駄目で、残るはもう少し先の荒瀬ぐらいだが・・・。
ここで『キィーッ』という甲高い声、前方をよく見ると猿が2頭川原に居る。
さらに木の上には3頭見え隠れして、こっちの様子をしきりに伺っている。
どうも猿軍団に前方を塞がれた模様、ここで笛を吹くのは逆効果と学習しているので、あとずさりして林道に上がることになり、3つ目の障害となった。

猿に追われてさらに下流へ、前回お昼一番に入った区間。
しかし、ここも水量が影響して魚の反応がほとんどない状態。
終わり近くで何とか23cmのアマゴを1匹キャッチするのがやっとだった。
23-2

時間は1時となり、お昼休憩とお昼寝タイムをゆっくり摂ることにした。
足が攣って目覚めたのが4時少し前、雨がポツポツ落ちてきた。

雨は夕方から本降りになるとの予報なので、早めに仕掛けなければ。

一瞬何が起きたのかよく解らなかったが、よく見るとウリ坊こと猪の子供である。
可愛いなあと見ているうちにそのうちの2匹が、勢いあまって川に転落。
そして、『ブヒィーッ』という叫び声を何度も辺りに響き渡らせたのである。
その時、向かいの竹藪の中を掻き分けるようにすごいスピードで猛進する黒く大きな生き物が見えた。
子供たちの叫び声を聞いて、必死になって走り回っている親猪に違いない。
そのうちにその大型の親猪が立ち止まり、牙を剥き出しにしてこちらのほうを睨んでいる様子、いわゆる視線が合った状態・・・、直線距離にして30m位。
『やばいっ・・・!』その瞬間、迷わず林道への獣道を這い上がって難を逃れたが、
一歩間違えばどうなっていたかと考えると恐ろしい。
幸いウリ坊も少し川に流されはしたが無事に泳いで(?)岸に這い上がり、親の元へと向かって行った。

こうして4つ目の障害に邪魔されはしたが、時間はまだ5時前でこれからがゴールデンタイム、さらに下流へ転進することにした。
雨も本降りになって、最後に選んだのはHトンネルの横に架かっている橋の少し下流部で、前回ルアーマンが大型のチェイスがあったと言っていた淵。
ライズもハッチもない状態ではさすがにその淵も無反応だったが、その上流の流れこみのヨレで良型がヒットした。
25cm位のアマゴだったが下流に走られ首を振られてフックが外れてしまった。
フックサイズが小さいと、こうしたバレが良くあるのは仕方のないところ。

その後すぐに21cmのアマゴをキャッチ。
21-3
p-3

さらに進んだ淵の流れ込みで大型が反応したが、魚体ではじかれたような出方で残念ながらフッキングしなかった。
やはりQBPオンリーでは無理がある。
あたりは霧が出てきて薄暗くなり、次の橋の上流へ進んだところまでで18cmと20cmのアマゴを追加し、7時15分ようやくロッドをたたんだ。

今回は様々な障害に出合って苦労もしたが、そこそこの数と型に恵まれ一日充分に愉しむことができた。
猿や猪などと遭遇して怖い思いもしたが、また来週も出かけようと思っている、私は懲りないフライ親父です。

今回得た教訓『子連れの猪と遭遇したら高い木などに登ってやり過ごすこと。』
走って逃げようとしてもあのスピードには絶対かなわない、猪突猛進を目の当たりにしての実感です。(O)