T川有情

秋の訪れが本格化する9月最後の連休、今年のフライフィッシングの終焉をどこの川で過ごそうか・・・。
人に邪魔されず、静かにのんびりとキャスティングを愉しみ、そして渓魚たちに別れを告げたい・・・。
そんな思いを満たしてくれるところといえば、私にとっての母なる川、T川しかありません。
気ままな単独釣行と2日間たっぷり時間があるということで、現地到着が朝8時半といつもよりゆっくりめでした。
実を言うと今回は、過去に25cm以上の『T川アマゴ』が釣れた渕や瀬を、ひとつひとつ辿る想い出巡りの旅であり、また、最近興味を持ち始めたウェットフライを試してみるといった、二つのもくろみがありました。
前夜苦労して巻いたウィング付ウェットフライが5本と、ソフトハックルフライが5本。
これらを試すことが出来るのは本流中流部ということで、朝一番は、青い橋下流のポイントに入りました。
このところの好天続きで川はかなり渇水状態ですが、水温は16℃とまずまずです。
ドロッパーにピーコックボディのEHC16番、リードフライにはクイルボディのパートリッジ16番を結び、いよいよ至福の時の始まりです。
夏のあいだ賑やかだった蝉時雨はもう去り、聞こえてくるのは川のせせらぐ音と、鳥のさえずりのみです。
入渓してしばらく進んだ瀬でファーストヒットしたのは、16㎝のアマゴでした。

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沈めたソフトハックルをがっちり銜えていました。
やはり、フライを少し沈めた方が反応がいいようです。
その後も、18cmまでのアマゴが退屈しない程度に釣れ、左へ大きくカーブする手前の渕に差し掛かったときです。
少なく見積もっても27-28cm、いや尺はありそうな大型のアマゴがライズしたのです。
はやる気持ちを抑えて、とりあえず、そのままのシステムでキャストしました。
祈るような気持ちで、流れの筋を漂うフライを凝視しますが、何の変化もありません。
3回ほど空しく流れたあと、それをあざ笑うかのように再び彼女はライズしました。
興奮が頂点に達し、額に汗がにじみます。
ハッチが見えないのに水面を流れる虫を食べているということは・・・?
過去に同様の経験をして尺アマゴをヒットさせたことを思い出し、ティペットを7Xに落とし、22番のユスリカを模したミッジを結び、慎重にフィーディングレーンへ落とし込みました。
心臓の鼓動が大きく波を打ち、一瞬呼吸が止まります。
しかし、二度と水面を割る姿を見せることはなく、ライズを捕れなかった悔しさのみが心に波紋を広げました。
その後、青い橋より上流部を少し探り、お昼にしました。
休憩のあと、今度は先程よりやや下流部と、W地区下流部をウェット中心で流しますが、16㎝を2匹のみ。
夕まずめはT地区の渕で粘りましたが、不発に終わりました。
夕食を木之本ICのコンビニで摂り、そこの駐車場で眠りに就きました。

想い出巡りの旅2日目は、どうしても堰堤上流部ということになります。
朝6時に堰堤上の瀬からスタートしました。
昨日好調だったソフトハックルフライを使いきってしまったので、いつものQBP18番で釣り上がります。
相変わらず18cmまでのアマゴが、退屈しない程度にヒットします。

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午後も半明の橋までのいつものエリアに入り、ひとつひとつのポイントを噛みしめるようにトレースして行きます。
半明の橋の下で、朱点がひときわ鮮やかな20cmのアマゴを釣って、5時に一旦上がりました。

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しかし、何となく、昨日から引きずっていることがひとつあります。
それは、“昨日の彼女にもう一度逢いたい・・・!”という、せつない想いです。
一度振られた彼女に、いつまでも未練を残すセンチメンタルな気持ちや、今シーズンの有終の美を尺アマゴで・・・。
いろんな想いが交錯しながら、車は青い橋のたもとに向かいます。
が、しかし、現場に到着して愕然!!
青い車が1台駐車してあります。
橋の上から下流方向を見ると、今まさに一人のルアーマンが私の憧れのポイントに近づこうとしているではありませんか!
今シーズンのフライフィッシングは、終わりを告げました。

結局、2日間で20cm以下のアマゴを19匹。
想いでの渕や瀬は、そのほとんどが砂で埋まり、もう昔日の面影はありません。
今シーズン23cm以上のそこそこのサイズですら、数えるほどしか釣れておらず、恐らく来シーズンも大差ないでしょう。
環境破壊が進み、大型が育ちにくい川に変貌を遂げようとしているT川。
何もできず、ただそれを受け止めなければならない忸怩たる思いが胸をよぎるなか、2日間で釣れた元気なアマゴたちにかすかな期待を抱きつつ、冷たい秋風の吹きぬける渓を後にしました。(O)