U川の実力

季節は、ほぼ十五日毎に変わります。
毎週のように大自然の中に身を置いて五感を研ぎ澄ませていると、季節の変化を身体全体で感じることができます。
暑さも収まるという『処暑』が間近に迫った8月20日(土)は、『安・近・短』釣り場でお茶を濁すつもりでした。
しかし、前日にたまたまF氏と逢う用事ができ土曜日の予定を聞いたところ、T川も素掛けが解禁になり“今シーズンの鮎釣りはもう終わりや”とのことで、急遽U川への釣行が決まりました。
ここしばらくまともな釣りができていなかったこともあり、久しぶりにイワナの強い引きが味わえると思うと心が少し震えます。
ただ、朝一番の5時に現地に到着するためには、我が家を夜中の1時に出なければなりません。
となると眠りに就く時間がほとんど無い・・・!
相談した結果、会社から帰ってすぐ出発することにしました。
というわけで、現地の鳩ヶ湯温泉前に到着したのが草木も眠る午前1時です。
缶ビールを飲み干し、早速仮眠をとることにしました。
こういうとき素早くベッド代わりになる私の車は便利です。

朝5時に起床して川を見ると少し増水していますが、問題ない水量です。
勇んで鳩ヶ湯温泉下の魚影の最も濃いポイントから釣り上がりました。
最初のポイントで早くも22-3cmのイワナがエルクヘアカディスを見に来ました。
F氏のクイルボディにもコンタクトがありましたが、フッキングにはいたりません。
さすがに魚影の濃さでは天下一品ですが、超有名ポイントだけに連日誰かが攻め立てており、警戒心が半端ではないようです。
そうこうするうちに少し釣り上がったところで釣り人を発見しました。
京都から来た若者3人組のフライフィッシャーで、上流から釣り下がってきたようです。
仕方なくそのポイントを諦め、取水堰堤の上のポイントに入りました。
幸い、入渓者はいないようです。
ここは前回の釣行でF氏とN氏がペアで入ったポイントで、また最近H氏が尺上のイワナを2本立て続けに上げたところです。
打波川の核心部といってもよく、多くの尺アップが潜む超有望ポイントです。
期待を膨らませて、いつもより遠目から7Xのティペットの先に結んだフライをトレースしていきます。
がしかし、反応がありません。
水温15℃で水量は申し分ありません。
何故か・・・!
思い当たることがひとつありました。
お盆休みの13~15日、F氏とその叔父さんがこのU川でイワナをなんと30匹もお持ち帰りしていたのです。
それも38cmを含む良型ばかり30匹が、このU川から確実に姿を消していることになります。
“お盆に殺生したらあかん!”と小さい頃から教えてもらってきましたが、こうも釣れないのは天罰かもしれません。
“おかしいなあ”とF氏と首をひねりながら釣り上がるうち、ようやくF氏に23cm位のイワナがヒットしました。
“えっ何故、殺生していない私にはヒットせず、殺生したF氏にヒットするの・・・?”
“天は我を見捨てたり~”
その後、奥の堰堤下まで詰めましたが私はノーフィッシュに終わりました。
F氏も先ほどの天罰外し?の1匹だけです。

昼食をどこで摂るか、迷った挙句、私がまだ行ったことの無い最奥のキャンプ場まで足を伸ばすことにしました。
ここは標高が900mあり、霊峰白山に続く一ノ峰、二ノ峰、三ノ峰の2,000m級の峰が眺望できるビューポイントです。
いつものように昼食後の午睡を貪ったあと、2時から午後の部がスタートしました。
入渓場所はキャンプ場下のU川最上流部です。
10年ほど前に、F氏が釣り仲間のK氏と入渓した際に、K氏が熊に襲われ、それ以来F氏も一度も訪れることが無かった禁断のポイントです。
釣り始めてすぐにF氏に反応があり、これはいけるというサインを送ってくれました。
私も、絶好の開きのポイントで25cm位のイワナがヒットしましたが、残念ながら合わせ切れです。
7Xのティペットが少し撚れて弱っていたようです。
良型が出そうな雰囲気を感じ、ティペットを6Xに変えて仕切り直しです。
雨が降り出し、F氏が25cm程のイワナを1匹釣り上げました。
堰堤を一つ越えてさらに上へ釣り上がります。
F氏が3匹目を釣ったところで降り出した雨が激しさを増してきました。
“このままだと、濁りが出てきて釣りにならなくなってしまう!” まだノーフィッシュの私としては焦りが出てきました。
そして、二つ目の堰堤の手前の落ち込みにフライを落とした瞬間です。
水面がわずかに盛り上がり、黒い影ががフライを銜えるのが見えました。
合わせが決まり、慎重に取り込んだのが25cmのイワナでした。

IMG_050820-1

雨の降りしきる中、なんとか無事デジカメに収め、リリースし終えた時、反対側の落ち込みを攻めていたF氏に良型がヒットしました。
F氏はランディングネットを持っていなかったため、キャッチしたイワナを手づかみにして私のほうへ歩いてきました。
そして、私のネットに入れようとした刹那、最後の抵抗を試みたイワナがF氏の手から滑り落ちてしまいました。
明らかに尺アップだったイワナの写真を撮ることができず、全く痛恨の極みです。
その後、堰堤下のプールを私が攻めて28cmのイワナをキャッチしました。
大粒の雨と堰堤を流れ落ちる飛沫の影響でフライが沈んで見えなくなったそのとき、白い魚体が水中をギラリと反転するのを見逃しませんでした。

IMG_010820-2

雨がさらに強くなって、警戒心が薄れたのか、大型イワナが次々とヒットし出し、まさに時合い到来です。
二つ目の堰堤の上は、例の熊に襲われた忌まわしい過去を持つポイントですが、大物イワナにとり憑かれた我々には関係ありません。
しかし、熊より怖いものがこの世にはあるのです。
それは雷です。雷雲がこちらの方へ近づいてくるのが見えます。
やむなくストップし、慌てて車まで戻りました。
もちろん、上半身ビショ濡れです。
その雷雨も車で着替えを済ませた頃にはもう止んでしまいました。
時間はまだ4時半、夕まずめのゴールデンタイムです。

キャンプ場からの道が川に最も近づくあたり、前回私とMチャンが揃って27cmを釣り上げた区間に入りました。
そして、前回の27cmキャッチポイントで今回は23cmを釣り上げました。
F氏もその手前で25cmをキャッチ。
さあこれからというところで、先ほどの雷雨による濁りが入ってきたため、6時半ストップフィッシングとしました。
私が、28/25/23cmの3匹。
F氏が、32-33(未計測)~23cmを5匹。
数は揃いませんでしたが、型に恵まれ、U川の持つ川の実力をあらためて思い知った一日でした。
イワナたちはこれから始まる産卵の季節を控え、確実に上流を目指して移動を始めています。
9月に釣行会を計画していますが、U川では堰堤狙いが吉と出るようです。(O)

U川最上流部は堰堤が狭い間隔で連続します。川幅は狭くなりますが、その分ポイントが絞りやすくなりドラグも比較的容易に回避できます。イワナの魚体は美しく型も大きかったのには驚きました。10数年前は餌釣りの人たちが多く入り小さいのばかりでしたが最近はあまり釣りに入っていないのでしょうか。一度フッキングしてバラしたのがもう一度食ってきたのには笑いました。
入りやすくて釣りやすいんですが、一人では入らないほうが無難です。ハイキングの人たちが林道をしょっちゅう歩いている最中でも平気で熊さんは出てきます。特に9月は要注意 !!鈴と笛は必携です。-(F)

お約束のPHOTOGRAPH、今回は最上流部の一枚です。
P-1000197