ダブルホール(仮題)

私たちが通っている渓流筋ではほぼシングルハンドキャストが出来れば事は足りる。
飛距離も10mも飛べば十分であるから、ことさらダブルホールやシングルホールがどうのこうのというのは不要かもしれないが、それなりにいい事もあるので、これからフライフィッシングを始めようという方はまぁ頭の隅にでも置いてもらってダブルホールなら何とかキャッチ出来たライズに悔しい思いをされたときにでも再読してみてください。

取り敢えずダブルホールというのはフライフィッシングでしか通用しないラインの出し方であるという事、これはラインの先端に重量のあるものを取り付けて振り子の原理で針のついた部分を飛ばすルアーのような投てき方法ではなくラインの重量を利用して軽いフライを飛ばすのだというのはよく御存じの通りです。テーパーとかウェイトフォワードとかロッドの硬さ等々いろいろ条件が付いて着ますが、まず単純になぜラインを引っ張る(ホールする)ことがラインのスピードを上げるのかというところから行ってみます。
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まずロッドをぶんぶん振ってラインが4~5m出た状態でこれからまた後方にロッドを振る直前、ラインが目いっぱい前方に行った瞬間ですが。
ここからロッドを後方に振るスピードをa、ラインを引っ張るスピードをb、とします。
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ロッドを振りながらラインを引っ張ると、ただロッドを振るだけのaよりラインを引っ張ったスピードb分もプラスされるわけです。ちなみにプルではなくホールというくらいなので強く引きます。
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ロッドをaのスピードで振る間、ラインをbのスピードで引き続ける。ロッドを止めた瞬間にラインを解放(離す)するとa+bのスピードでラインは飛び出すという事になります。
つまりロッドを振るだけのスピードaにラインを引っ張ったスピードbがプラスされるようにロッドを振りラインを引っ張って離せばbの分だけ得をすることになるというのがホールの基本的な考え方です。

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後方へ一度ホールをかけてb分得してシングルホール完了
物理的諸条件は取り敢えずおいといて、a+bのスピード(エネルギー)分ラインは飛んでいくがこのエネルギーを使い果たすと落下するので、落下しだす前に解放していたラインを掴んで、また引く。a+b分後方へ飛んだラインを前方にロッドをaスピードで振り戻す、この時またbスピードで引くとa+b+bのエネルギーを得られる。で当然スピードはa+bだがラインが伸びた分ラインの重量が増えているのでa+b+bのエネルギーで前方へ飛びだす。
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こうやって前後で引っ張りを加えてロッドを振るとダブルホールとなる。これを繰り返すことによって延々とa+b+b+b+…となる。
はずだが先程取り敢えずおいておいた物理的諸条件の為、当然ながら限界を迎えることとなる。なのでラインが伸びるのを楽しみすぎず、良い加減なところでシューティングしてやってください。

ここまでの図ではロッドはまっすぐだが実際はしなやかな曲がりが出る。様々なアクションのロッドが存在するがホール(引っ張り)を開始する時点とホールを終えてラインを解放する時点はほとんど同じと現時点では仮定する。
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①のロッドはラインが出ている間停止している、②でラインが出ていくパワー(エナルギー)が失われる直前(直前よりもう少し前の時点)にラインを止める、③はまだエネルギーを失う前なので④のロッド先端を引っ張って曲げる。このロッドの先端がラインのパワーに引かれて曲がり切った瞬間からロッドをゆっくり後方へ振り始める、同時にラインもゆっくり引き始める。
ロッドをゆっくり振り始めるのはロッドは急激に加えられたエネルギーに対して停止を維持しようとする力が働くのでロッドの重心から手元方向は後方へ曲がるが重心から先は前に曲がってしまい、ラインの軌跡に波動を作ってしまうので空気抵抗をうまく利用できなくなる。
ロッドはゆっくり振り始め、後方で止める瞬間に最高速に持っていく。ラインの引っ張り速度も同じでゆっくり引き始め、ロッドが後方で止められる瞬間に最高速になるように引く。弾くという言い方をされる方もいれば、ウーーーワンをいう表現をされる方もいる。
ウーーーワンのワンの瞬間最高速に持っていき、その瞬間に弾くというのが理想である。

ロッドの振り始めは振るという感じではなくラインをロッド全体で引くようにロッドを回転させずそのままの角度でラインの重量を十分ロッドに乗せるるように後方へ引く。その間はラインが前方へ出ようとするパワーを殺さないようにしっかり止めておくか、ゆっくりホールの序盤に入る。パワーの乗ったラインを止めロッドを後方へ引くことによりロッドはさらに前へ曲がり後方への反発力を強める。ここまでがウーーー。

肘が体側に最も接近した時点でロッドを後方へ強く振る。と同時にホールを最加速させ、ロッドが前方の曲がりから後方へ曲がり始める瞬間にロッドの振り速度もホールの速度も最高速にし、ラインを解放する。ここがワン。
この一連の作業がウーーーワンである。

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ロッドを止める角度はもう少し後方へ倒れているかもしれない。ロッドが硬ければ狭く、軟らかいほど広くなる。またロッドの根元の軌跡は肘の軌跡とほぼ同じになる。ラインが出るほど両端は広くなるが、中央部分は変わらない。
ロングリーダー、ロングティペットを極端に軟らかいロッドで使用する場合、最終シューティング時に思いっきり振り下ろしてやるとうまくターンしてくれる。私はポイントに入れるのが難しいので、そこそこ硬いロッドでリーダーティペットを17~8ftにしている。

で、余裕があれば、ワンの最終段階で弾く作業を入れてみるとさらに加速できる。ラインをホールして解放するが、腕でホールしてきたラインを放す直前にボールを投げる時のように手首にスナップをきかせることにより更にホールのスピードを上げる事が出来る。ロッドも肘から後方へ倒し止めた瞬間後方へ手首のスナップを効かせることによりロッドのパワーをより強く引き出すことが可能となる。この一瞬のスナップを弾くという。

ついでに解放したラインをスムーズに出すためになるべくガイドの摩擦が少なくなるようにラインが後方へ出始めたらロッドを心持ちラインの出る角度に合わせて倒し、ラインを追うように送ってやると少しでも摩擦を和らげてやれるし、次のホール態勢に入りやすくなる。所謂ところの残心である。この残心が出来るようになればもう立派なフライフィッシャーである。

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後方からの軌跡は前方からと同じでいいがホールの角度は気持ちロッドの角度に合わせるが、この角度では長く引けないのでなるべくホールする腕をフル活用できる角度でよい。

前後にロッドを振ってホールの練習をするのは後方の確認がしにくいので、ロッドを正面に持って左右に振ってホールの練習をするとわかりやすい。左右のタイミングを掴んだら徐々に前後に持っていけば解りやすくなる。

たいして飛距離を求められない渓流のフライフィッシングにおいてダブルホールが便利なことをいくつかあげてみます。
まずは風、前方から吹く風が強くて思うようにキャストできない時は前方へのキャスト時により強いホールを加えることにより風に負けないキャスティングが可能になります。
後方から吹く風でバックキャスト時にうまくラインを出せない時も同じです。
ライズの上にボサなどの障害物があるときラインスピードを上げてループを狭くし、狭い空間でターンを可能にします。
あるいは、ボサ下にサイドキャストで投入したい場面ではラインの落下を極力減らす事が出来ます。
ロングティペットできっちりターンさせたいときにティペットにより多くのパワーを送る事が出来ます。
フライを落としたい地点までラインを出すのに何度もロッドを振る必要がなくなり多くのポイントを探る時間が出来てきます。
パワーのあるラインを出す事が出来れば目的のポイントにフライを落とす確率が上がります。
割と広い川でポイント移動時にラインを長く出したまま移動が可能になり、時間のロスがなくなります。
少し考えただけでもこれだけいいことがあるので、ロングキャストが必要ない方にもダブルホールをお勧めします。

続く

ツーハンドスペイはこちら(4:55以降)を参照