奈良北山川前鬼川

R169土砂崩れ現場4月20日から片側交互通行で通行可能、降雨量により通行止めとなることもあるそうです。
(2007/05/27追記)

伯母峯トンネルを南に抜けたところが土砂崩れ現場です。大台ケ原ドライブウェイから小橡川を抜け上北山村河合に出る迂回路を時刻指定で通れるようになりましたが物凄く時間のかかるルートで指定された時刻に遅れると2時間待ちという状況、現地の迂回路の必要不可欠な方々のためのものでしょう。当分R169は使えそうにありません。(2007/03/02追記)

神崎川と並んでK-1、K-2と3人ではまり込んだのが前鬼川である。
当時大滝ダムの計画さえ知らなかった私たちはR169の道の狭さと大台越えの曲がりくねった道に辟易しながらも道路の整備が始まるような雰囲気に何年かすればもっと通い易くなるのではないかと期待さえ抱きながら通っていたのである。ところがそれが大滝ダム工事の序章と知って、またかとがっかりしてしまった。
吉野川大迫ダムの上下流もよくやった。上多古下多古などは大物が悠々と泳いでいるのに見向きもしてくれなくて、あんな奴がいっぱい居るのに違いないとザイル一つ持たずに谷上りしていたがかなり険悪な谷であった。谷通しが行き止まりになる滝から上がった林道の終点で「この人を探しています」という遭難者の看板を目にし、下流の険悪さ以上の谷なのだと悟らされたものであった。
北俣川本流や本沢川の谷もまぁまぁ釣れてはいたが入渓者が多く、少々嫌気がさしていたのだった。そんな時雑誌で見た前鬼川の写真が物凄く綺麗でおまけによく釣れると書いてあったから是非とも行ってみなければとK-1と話がまとまったのである。

北山川沿いを上流から下り池原ダムを左に眺めながら走るとまず白川橋を渡る、この白川又川には1度入ろうとしてみたが途中の林道からは川が見えないほど高くて入るルートも見つからず林道の終点の谷が合流する地点からしか入れそうになかったのでこの川で釣りをしたことはない。ただこの川の支流、岩屋谷では「サバのようなアマゴが背びれを出して泳いでいる」と前鬼で出会った山仕事の老人に聞いたことがある。それはいつ頃の話なんだろう?そしてまた、私がこうして少し昔の事を思い出しながら書いているのもあの老人の話と同じようなものなのだろうな、いつの時代も昔はよく釣れたものだという話があるのだろう。釣れた日のことしか覚えていないのだ、まぁそんな程度のお話である。

 前鬼橋を渡りすぐ右の林道に入り筋沿いを走り林道が登りにかかった辺りから不動滝(七重の滝)が見える、更に登るとトンネルが二つ続き、このトンネルを抜けるといきなり右側に川が現れる、不動滝のすぐ上流である。ここら辺からも釣れるが黒谷まで林道があり比較的入りやすいので釣り荒れている。運よく釣れる日にあたった時は黒谷まで通して数型共に満足のいく釣りが出来たがその確立は2割に満たなかったと思う。当時は餌とテンカラの両刀使いだったが黒谷より下流では圧倒的にテンカラに分があった。
前鬼川はほぼ岩盤を切り裂いて流れているような川で林道の高い場所から川を見るとその流れはコバルトブルーに輝いていた。
落差もかなりあり大小の滝が無数にあって、その滝壺は近くで見てもコバルトブルーの水色で岸を覆う岩盤やそそり立つ大岩に映えてこれほど美しい川は未だにみた事がない。比較できるとすれば庄川水系のカズラ川くらいだろうか、しかしカズラ川の水は透明すぎて水があるのか?と思うほどで透明度には勝るが美しさでは前鬼に勝る川にはまだ出会えていない。
 黒谷出合いから上流へ本流を30分ほど川通しで上がると5mほどの滝が現れる。この滝を巻いて滝上のナメラ床が深く掘られた淵からが本番である。
この川はさわナビさんの大峰周辺の谷/前鬼杖谷で紹介されています。
箱状廊下、三重の滝、と続き2段6m滝下の壷ではK-1が竿を上げることも出来なかった大物と思しき奴に逃げられた事もあった。
本流と思しき川を詰めると大きな石と石の間から水が流れ出していて、この石を乗り越えると川が忽然と消えていた。伏流していたのだろうがここまでは2度詰めたことがある。その上流は未経験だ。多分また川が現れるのだろうが魚が居るとは思えない。

 この川のアマゴはとても可愛い顔をしている。口がまるく目が異様に黒くて大きい、まるでイラストの可愛い魚の顔そのままなのである。叔父から聞いた話で本当なのか冗談なのかよく分からないのだが、餌の豊富な川の魚は口が丸く、少ない川の魚は口が尖っている。これはいち早く餌を口に入れるために口が伸びてきたのだというのだ。確かに前鬼は餌は豊富である。小砂利を足でかき回すとすぐに数匹のオニチョロを取ることが出来る、しかもそのオニチョロときたら、他の川の倍はあろうかという大きさなのである。周りの山は広葉樹林で夏はテレストリアルもかなり居そうである。

 私が知る限りではこの川は一度砂利に埋め尽くされた年があった。小砂利のくぼみをちょろちょろと流れる川を見て、これはもう十年以上は釣りなど出来る川には戻らないと思ったのだが、翌年K-2が様子を見に行くと砂利は綺麗サッパリなくなっていて元の川に戻っていると報告してくれた。あれほどの砂利を流し込み、そして綺麗サッパリ流しだす大台の日本一の降雨量の凄さを実感したのである。あの膨大な量の砂利は全て池原ダムに流れ込み堆積していくのだろう。ダムの是非を考えさせられた事象であった。治水砂防において短期的には効果を出しているのは事実なのだ。では長期的な観点でダムを評価するとなると…難しい。規模を小さく考えて見ると堰堤など造った尻から砂利で埋まっていく。そしてその上を又砂利が通り越して流れていく、又下流に堰堤を造るといった際限のないことになっているように思えるのだが、識者といわれる方々にはそれなりの計算があっての造作なのだろう。日本の渓流は将来堰堤の階段になってしまうのではないかと思うほどの勢いで堰堤が造られている。

 暑い暑い夏のある日、K-1と二人で午前中黒谷出合い下流をやり、昼飯は上流の5m滝の下で素麺を食べたが滝の風に長く吹かれていると寒くなってしまい震えながら下りて来た事があった。真夏でも水温はかなり低い。
 禁漁も間近になった9月の小雨のそぼ降る日、3m滝を越えて滝谷出合いまでの中間辺りから、いったいこいつらは夏の間どこに居たんだろうというほど25~8cmのが入れ食いになり、そのあまりの釣れ様になにか狐にでも抓まれているような感じがして、いつもは川通しで帰っていたのだが、この日は妙に不安を感じ安全を期して行者道から峠越えで帰ろうということになった。
 浅い淵の流れ込みでアマゴが数匹餌を追っているのが遠くからでも見えるほど水は透き通っていたので神崎川で使っていたルアーを試してみたが、どうもアマゴにはあまり効果がないようであった。3年ほど前だったか一度フライを持って入ったことがあったが効果覿面であった。しかも同じポイントの魚が2尾立て続けに食ってきたのである。この川ではゴールデンウィーク以降にK-2がテンカラやフライでかなりいい目をしたと何週か立て続けに出かけていたが、私も一度、フライでゴールデンウィークの翌週だったと思うが結構いい釣りをしたことがある。

 前鬼はK-1と餌釣りで踏破し倒し、K-2とテンカラそしてフライで通いつめた私の知る渓流の中では一番綺麗な渓流である。
 そして、私が大きな怪我をして多くの方々にご迷惑をお掛けしてしまった渓流でもある。このことはきちんと書かなければならないと思うので後日改めることにする。

 池原、坂本周辺には他に池郷川、備後川、そして東ノ川と名だたる渓流が流れている。東ノ川は入ったことがない。池郷は林道の悪さに車酔いしてしまった、川通しで谷を上がるのは難しく林道から川へ下り滝で一旦上がり又下りては上がるという感じだ。上流はそうでもないらしいのだが私は上流を釣ったことはない。ただ、滝下の淵は大きく、大きな魚が回遊しているのをよく目撃していたが、釣れた試しがなかった。
 備後川はバックウォーターが長くていったいどこまでこの筋は続くのかと不安になりだした頃、なかなかの渓流が現れてくるのである。チョークストリーム風のなだらかな流れは如何にも大物を育んでいそうなのだが、我々には外道しか釣らせてくれなかった。もっと上流に行かねばならないのかと、再び車を走らせ上流へ向かい川が二股に分かれる辺りでやってみたが、水量少なく川幅も狭まり、釣れて来るのは20cmにも満たないアマゴばかりだった。その日は夏のことでもあり、春先から初夏の頃はもっといい釣りが出来そうな気がするのであるが、前鬼筋から1時間以上も走らなければならないので2度ほど行ったっきりである。
 少し場所が飛ぶが北山川上北に流れ込む小橡川も面白い川だった。途中に小処温泉(秘湯の趣がある)があり温泉を過ぎて林道終点の堰堤を越えると適度な落差を保って流れる玉石の多い渓になる。釣りをしたのは短い時間ではあったがテンカラにそこそこ反応があり、数尾のアマゴが獲れた。この渓相がなんともいい雰囲気でもう一度ゆっくり来ようと思っていたのだが、そのチャンスは未だ訪れてはいない。
 北山川水系の谷はこれくらいしか行ったことがない。何しろあちこち行くより前鬼!というのが当時我々の暗黙のルールであったのである。

 大台の山を超えた三重県側の宮川水系大杉谷は凄いところだと叔父に聞いてはいたが行ったことはない。2~3年前の大規模な水害から徐々に回復しているようである(大台町ホームページより)。