夜来の雨と朝霧でしっとり濡れた川沿いの林道を進むと、透明感を失ったT川が褐色に染まった無残な姿を晒していた。
“これくらいの濁りなら、何とかいけるで・・・”と、諦めきれないF氏の声もどこか弱々しい。
試しに支流のO川出合いまで様子を見に行くが、濁りの色を濃くするばかりで、
“やっぱり駄目か・・・!”と、ため息が漏れてしまう。
“こういう時は、あそこしかないか・・・”と、急ぎ車をUターンさせ、濁りの原因となっている上流部の支流より上に入ることにした。
雨は止んでいるから、午後にはこの濁りも回復するだろうという読みもある。
ここ最上流部は笹濁り程度で、何とかドライフライで挑戦できる色合いだった。
先週あたりからカディスが多く飛び交っていて、EHC16番を使っていた私に早々にヒットしたのは、20cmのアマゴ。
心なしか先週よりボリューム感がある気がするのは、思い入れの強さだろうか?
カディス(トビゲラ)の帯が川面を覆うのも近い
ストーン(カワゲラ)が空一面に飛翔しだすのはもう少し後だったかな?
カディスの持ち合わせが少なかったF氏は、ウェットフライで果敢に挑戦。
マーカーの変化を見逃さず、きっちりとアマゴを釣ってしまう技はお見事というしかないが、いつもながら懐の深さはさすがである。
お昼までやり二人で18cmから22cmまでのアマゴとイワナを10匹程キャッチ。
小雨が降り出し風も出てきて、缶ビールを持つ手が震えながらの昼食を済ませた。
川の状況はといえば、読みが当たり、濁りが少しマシになってきている。
となれば、お決まりの堰堤上流部に速攻突撃開始である。
しかし、増水しているためポイントが減っていて居付き場所の絞込みが難しい。
ここでもF氏の26cmを筆頭に、二人で10匹程キャッチした。
イブニングは場所を上流部へ移動、しかしこの頃から雨も本降りになってきた。
増水と濁りがさらに強くなってきて、虫たちのハッチも無くなってしまった。
それでもピンポイントを拾うように釣り上がり、6時半寒さのためギブアップ。
最終的に、二人合わせてイワナ混じりで30匹程キャッチしただろうか。
型に不満が残ったものの、このコンディションでは良しとしなければ・・・。
今年もこの川の持つ底力を感じることができた5月、でもそれはまだほんのプロローグにすぎない。
今の季節、山ツツジや藤の花が競うように咲いているが、やがて甘酸っぱいクワやグミの実が熟し出す頃になって、本当のクライマックスを迎えるのである。
仕事の都合でしばらく来れなくて残念だが、その頃にふたたび訪れよう。
雨もようやく小降りになって、暮れなずむ山の緑が一層色濃くなっていた。(O)